思えば、そのアトリエでの体験はいつもリラックスしたものでした。
ありがちな重厚な雰囲気はありません。まさにアトリエでおもてなしを受けている感覚。
階段しかない建物。
笑顔で僕を迎えるご夫婦。
遅れてやってくる友人。
できあがったジャケット……。
まさに多忙を極めた2022年において、これは安らぎの物語でした。
いわゆる「人に教えたくない名店」に近しい気持ちもありますが、この気持ちを独り占めするのはバチが当たりそうです。
そもそも僕自身、教えてもらって辿り着いたお店ですから、求める人に良き道は拓かれるべきかという気持ちで書いていきます。
◆SARTORIA SOL LEVANTE
「サルトリア ソルレヴァンテ」と読みます。
今どきはSNSの時代ですから、公式HPよりインスタグラムの方が有益かもしれませんね。
なんかもうワンオペでやってる感じなので、SNSなんてチャラチャラしたもん更新してる暇ねーよみたいな気概を感じます。
「スマートフォンぽちっとする暇ありゃひと針でも縫うぜ俺は」みたいな。まったくそんな人柄じゃなかったが。
作例を覗いてみると、フルハンドメイドのただならぬ雰囲気が画像から漂ってきます。
ですがそこはやはりソルレヴァンテ流。
厳かというよりは暖か。
完全というよりは悠然。
力の抜けた大人の色気を感じます。
果たしてその魅力はどこから雰囲気として現れるのか……仕立てた服を見れば、わかるかもしれません。
◆生地の選択
今回は縁あってテイラー&ロッジのラムズゴールデンベールをチョイスしました。
極細のウール生地から独特の鈍い光沢が見られます。
この生地でジャケットを仕立てれば、さぞかし汎用性の高い素敵なアイテムになるでしょう。
◆仮縫いと中縫い
さて、ジャケットをオーダーしてからはタイミングを合わせて仮縫い→中縫いの工程です。
サルトリアソルレヴァンテは東京に居を構えています。
僕は神戸住まいですから、どうしても出来てすぐ行くわけにはいかず少々時間がかかってしまいました。
しかしそれだけ楽しみが増すというもの。
とはいえ僕の乏しい経験では仮縫いにあれこれ意見するほどのノウハウは無く、ほとんど言われるままなすがまま。
「ここが良いけどここは修正する」などとはっきりいってさっぱりよくわからないご説明を頂き、完成へと近づいていきます。
良いことはわかる。何がダメなのかがさっぱりわからない……。
ひとつ印象的だったことが。
中縫い時、先方より「yurimeさんのTwitterを拝見したところこういった雰囲気の服がお好きなのではないかと思い……」などと、ビスポークジャケットの構想をお聞かせいただいたことです。
僕、フォローしてませんしされてませんが?
というかアカウントないですよね?
どうもたまたま見つけて頂いたようで、その際にネトスト観察していただいたようです。
これはとても嬉しかったです。
なににおいても顧客が笑顔になるのは「自分に興味を持ってもらいたい」「もってもらえた」ときではないでしょうか?
きっと、「どうやって着てらおうか」と考えながら縫われたのでしょう。
顧客冥利につきますね。
◆できあがった服
そうしてできあがった服がこちら。
中庸なブレザーですが、随所にこだわりが見られます。
まずなんといってもラペルまわりは雰囲気抜群です。
星ステッチ、手縫いボタンホール、パッカリング。
肩は適度にシャツ袖、そしてここにも星ステッチ。
中庸なはずなのに、明らかにただならぬ雰囲気です。
ハンドメイドのビスポークジャケットにはそこにしか宿らない種の魅力がありますね。
◆着用
ROTAのパンツに合わせて、タイドアップしたジャケットスタイル。
まず着心地に驚かされます。軽く、優しい着心地。
ゆったりとられた肩幅に、適度にシェイプする腰回り。
まさに寛いだエレガントスタイルです。
(寛げる、ではなく「寛いだ」印象)
ニットを入れても良い空気感です。
ビスポークジャケットだからといって気負うのではなく、まさに日常に溶け込むようなスタイル。
やはりこういった服は作り手のお人柄がよく出ます。
ニットタイを使ったブレザースタイル。
このタイはアットヴァンヌッチのもの。
◆最後にまとめとあとがき
どんなシーンでも着られる服とは、得てして帯に短し襷に長し。
しかしこの服は違います。
「あらゆるシーンの最適解」足りえる魅力を持っています。
ちょうど朗らかで生真面目、それでいて情熱的でストイックな、どこかでお会いした人のように。
ああ、あの人に会いたいな。と思うようにクローゼットに手が伸びる。
この服にはディティールや雰囲気だけでなく、情緒的な良さがあります。
ちょうど日常で使うカラトラバみたいな、贅沢な気持ち。
またひとつ、永く付き合いたい服が増えました。
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